リフォームを資産評価すれば住宅の災害対策を促進できるのでは?

台風15号により被害を受けられた皆さまには、心からお見舞い申し上げます。

非常に強い勢力の台風が関東に上陸するのは非常に珍しいことで、台風の東側の千葉県で多くの被害がでました。

消防庁によると、台風15号による千葉県内の住宅被害は、一部損壊を中心に9月24日時点で約12,700棟となっています。

今回の台風被害では、強風により屋根瓦が飛ばされる、破損することによって、雨漏りの被害に見舞われる事態が発生しています。

報道で屋根の破損が多く取り上げられていたためか、瓦屋根が台風に弱いという印象を持った人も多いようです。

この記事では、瓦屋根と台風の視点から「住宅のメンテナンスの重要性」と「なぜ日本人はリフォームにお金を使わないのか?」という点について説明します。

瓦屋根は台風に弱い?

瓦屋根は台風に弱い?

台風や大きな地震が起こるたびに崩れたり、破損した瓦の映像が流されます。
その映像を見ると、瓦屋根は災害に弱いと思ってしまいますが、瓦屋根を施工する人に聞くと、あれは昔の施工方法で作られた瓦屋根で、現在の工法で作った瓦屋根は台風や地震で崩れることは少ないそうです。

昔の瓦屋根は屋根に土を置いて、その土に瓦に接着させて、屋根を葺き上げています。
瓦はところどころしか釘を打っていないことが多く、経年劣化で土の粘着力がなくなると台風や地震の際に瓦が飛ばされたり、崩れたりします。

現在の工法は、屋根に瓦を引っ掛ける為の木材を打ち付けて、そこに瓦を引っ掛けて釘で固定するため、地震や台風で瓦が取れてしまうことは少ないそうです。

住宅のメンテナンスは防災のうえでも大切

住宅のメンテナンスは防災のうえでも大切

上記の瓦屋根の場合、土の粘着力がなくなっていることがメンテナンスで分かれば、補強や葺き替えなどの対策ができます。

瓦屋根だけでなく、スレート系屋根材、金属系屋根材でも塗膜の劣化や破損などが起きている可能性があるので、10~15年に一度は点検をして、再塗装や補修などのメンテナンスが必要です。

災害時の被害を軽減できたり、快適に暮らすためには屋根だけでなく、外壁や住宅設備もメンテナンスや交換が必要になります。

日本人が家のメンテナンスをしない理由

日本人が家のメンテナンスをしない理由

日本の家は消費財・海外の家は資産

日本人は海外と比較して住宅のリフォームにお金をかけません。

行われているリフォーム工事の多くは、設備の修繕維持のためのもので、増改築はごくわずかです。

住宅投資に占めるリフォームの割合の国際比較
日本のリフォーム市場
出典:中古住宅の流通促進・活用に関する研究会


20年経過したら木造住宅の価値はゼロという考えの日本と、50年、場合によっては100年と修繕を続けながら家を使い続ける欧米との価値観の違いがあるのかもしれません。

家に消費税がかかるくらいですから、家は消費財で古くなったら壊して建て替えるという価値観は簡単には揺らがないかもしれません。

リフォームをしても家の価値に反映されない。

住宅投資額の累積と 住宅ストックの資産額
出典:中古住宅の流通促進・活用に関する研究会

上記のグラフで、住宅投資額の累積と住宅ストックの資産額を比較すると、アメリカではこれまで行われてきた住宅投資額に見合う資産額が蓄積しているのに対して、日本では、投資額の累積を約500兆円下回る額のストックしか積み上がっていないことが分かります。

リフォームにお金をかけても、家の価値に反映されないということです。

日本の住宅が陥っている悪循環

日本の住宅が陥っている悪循環

日本の家は消費財でリフォームをしても価値が上がらないから、リフォームやメンテナンスをしない。その結果として、メンテナンスをしていない住宅は災害時に大きな被害を受ける可能性が高くなるという悪循環に陥っています。

逆に、リフォームをすれば家の価値に反映されて、資産価値が高まれば、積極的にリフォームをする人が増えるかもしれません。リフォームの結果、家が災害に強くなるということもあるかもしれません。

中古住宅における建物評価の適正化、リフォーム投資への正しい評価が行われるようになれば、その成果として住宅の災害対策にもなるのではないでしょうか。

中古住宅流通環境を改善するためには?

中古住宅流通環境を改善するためには?

法定耐用年数偏重をやめる


建物の評価・リフォーム投資への正しい評価をさまたげている大きな要因は「法定耐用年数」に対する考え方です。


※法定耐用年数とは?
建物・機械など固定資産の税務上の減価償却を行うにあたって、減価償却費の計算の基礎となる年数

税法上の減価償却費の計算の基礎なので、実際の耐久力や建物の価値とは、イコールではありません。
木造住宅の法定耐用年数は22年ですが、築22年以上でも何の問題もなく生活ができる木造住宅はたくさんあります。

木造住宅の物理的な耐用年数は、立地やメンテナンス状況によって大きな差が出ます。
大きな差が出るはずなのに、日本の不動産は築年数で一律に評価されているのが現状です。

中古住宅の流通促進・活用に関する研究会の資料にはこのような記載があります。

アメリカの鑑定評価では、実質的な経過年数(Effective age)と、経済的残存耐用年数(Remaining economic life)を建物価格の判断要素としており、実際の築年数は査定上考慮に入れていない。

中古住宅の流通促進・活用に関する研究会

アメリカでは、不動産売買の時に建物の調査をして、所定の修繕工事を行うと耐用年数がリセットされて、修繕工事による品質の上昇が建物の価値を高めます。

国交省は、アメリカの不動産流通システムを参考にしており、アメリカの不動産についての調査を多数リリースしています。

金融機関の融資基準の変化

国交省は、研究会の報告書を参考にして、既存住宅の流通促進に向けて、基礎的な品質への適合が確認されている住宅に対する「安心R住宅」制度を創設しました。
※基礎的な品質
・新耐震基準等に適合
・専門家の検査(インスペクション)の結果、構造上の不具合・雨漏りが認められない

国交省では、既存住宅の流通促進に向けての対応をしていますが、まだまだ法定耐用年数を絶対視している省庁があります。

金融庁は、今年5月の西武信金への行政処分についてのリリースでこのように言っています。

融資期間に法定耐用年数を超える経済的耐用年数を適用する場合には適切な見積りが不可欠である中、経済的耐用年数等を証する書面を作成する外部専門家に対し、金庫職員が耐用年数や修繕費用等を指示・示唆するなどの不適切な行為が多数認められる

西武信用金庫に対する行政処分について 関東財務局

不動産売買の多くはローンを利用します。
不動産会社や買主が適正なメンテナンスをされている建物を高く評価しても、金融機関の評価が低ければ不動産の価値は上がりません。

アメリカのように、どこを直せば耐用年数リセットというような明確な基準がないことにも問題がありますが、お金を貸す側を所管する官庁が、いまだに法定耐用年数を重視しているのでは、まだまだ木造住宅は22年で価値がゼロという価値観と家のメンテナンス不足による災害被害という悪循環は変わりそうにないというのが現状で、とても残念です。

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