先日、在職老齢年金の支給停止額が減額縮小されるという報道がありました。
年金制度は複雑なため、「在職老齢年金ってなに?」という人も多いのではないでしょうか。
この記事では、在職老齢年金制度の説明と支給停止額シミュレーション、支給停止額の減額による年金支給額への影響について説明します。
目次
在職老齢年金の減額縮小へ 報道内容
以下、報道された在職老齢年金の減額縮小の記事です。
在職老齢年金の減額縮小へ 月収62万円まで全額支給 厚労省、就労を促進
働いて一定以上の収入がある人の年金を減らす「在職老齢年金制度」について、厚生労働省は7日、65歳以上の人が減額対象となる基準を緩和する方針を固めた。現行の月収47万円超から62万円超に引き上げる案を軸に調整する。月収が62万円までなら年金は全額支給される。
在職老齢年金制度は高齢者の就業意欲をそぐという指摘が出ており、厚労省は廃止を含めて見直しを検討していた。だが廃止すれば、年金支給額が大幅に増え年金財政への影響が大きいため当面は見送る方向となった。
2019.10.7 産経新聞
在職老齢年金とは?
厚生年金をもらえる人が60歳以後も働き続けると、給与と受取る年金の額によっては、年金の一部または全部が支給停止になる制度です。
厚生年金の対象になるサラリーマンの給与収入が対象となるため、厚生年金に加入しない自営業者や株・不動産のような資産運用による収入は関係ありません。
厚生労働省によると、厚生年金という制度は、そもそもは労働者が退職して収入がなくなった後の所得を保障するために作られた制度なので、働いている間は年金は支給されないという前提があります。
そのため在職老齢年金で支給額の調整をしています。
在職老齢年金調整の仕組み
まずは用語の説明です。
基本月額:厚生年金の月額。配偶者や子がある場合に加算される加給年金はカウントしない
総報酬月額相当額:月給(標準報酬月額)に直近1年間の賞与を12で割った額を足した額
60~64歳の在職老齢年金
- 基本月額+総報酬月額相当額が28万円以下→全額支給
- 総報酬月額相当額が47万円以下→基本月額が28万円以下→① 基本月額が28万円超→②
- 総報酬月額相当額が47万円超→基本月額が28万円以下→③ 基本月額が28万円超→④
支給停止額の計算
- ① 基本月額-(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)÷2
- ② 基本月額-総報酬月額相当額÷2
- ③ 基本月額-{(47万円+基本月額-28万円)÷2+(総報酬月額相当額-47万円)}
- ④ 基本月額-{47万円÷2+(総報酬月額相当額-46万円)}
昭和36年4月2日以降生まれの男性、昭和41年4月2日以降生まれ女性は、年金受給開始が65歳以上なので関係ありません。
65歳以上の在職老齢年金
・基本月額と総報酬月額相当額との合計が47万円以下の場合
→全額支給
・基本月額と総報酬月額相当額との合計が47万円を超える場合
→基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-47万円)÷2=支給停止額
在職老齢年金の支給停止額シミュレーション
(本人:年収500万円、配偶者:年収400万円)
年金受取額シミュレーション
専業主婦家庭
本人 厚生年金:8.5万円 基礎年金6.4万円
配偶者 基礎年金6.4万円
共働き
本人 厚生年金:8.5万円 基礎年金6.4万円
配偶者 厚生年金:6.9万円 基礎年金6.4万
在職老齢年金による支給停止額シミュレーション
在職老齢年金 60~64歳 (本人:月額30万円、配偶者:月額20万円で雇用)
専業主婦家庭
本人 給与30万円+年金(8.5万円-支給停止額 5.25万円=3.25万円)=33.25万円
支給停止額:基本月額8.5万円-(総報酬月額相当額30万円+基本月額8.5万円-28万円)÷2=52,500円
配偶者 加給年金年額390,100円÷12=32,508円
共働き
本人 給与30万円+年金(8.5万円-支給停止額 5.25万円=3.25万円)=33.25万円
配偶者 給与20万円+年金6.9万円=26.9万円
在職老齢年金 65歳~
専業主婦家庭
本人 給与30万円+年金8.5万円=38.5万円
配偶者 振替加算年額26,940円÷12=2,245円
昭和41年4月2日生まれ以降の人は振替加算の該当なし
共働き
本人 給与30万円+年金8.5万円=38.5万円
配偶者 給与20万円+年金6.9万円=26.9万円
65歳以上の在職老齢年金については、現行制度でも基本月額と総報酬月額相当額との合計が47万円ですから、高所得でないと該当しないことが分かります。
在職老齢年金のどこをどう改正する?
改正案は現行の65歳以上の在職老齢年金の月収47万円超から62万円超に引き上げる案が有力です。
厚生年金は支給開始年齢の引き上げが段階的に行われています。
最終的には、男性2025年、女性2030年に全ての人の支給開始年齢が65歳になります。
2030年になれば、みんなが65歳から厚生年金をもらうことになるので、制度自体が自然消滅します。そのため60~65歳までの在職老齢年金については改正を見送るようです。
在職老齢年金は時代に合っていない制度
労働力調査によると、60歳~65歳の就労率は68.8%(男性:81.1% 女性:56.8%)、65歳以上の就労率は24.3%(男性:33.2% 女性:17.4%)です。
寿命が延びていることで、長く働くことが当たり前になりつつあります。
在職老齢年金は、時代に合わない制度になっているのは間違いありません。
在職老齢年金の改正は金持ち優遇か?
上記の試算のとおり、65歳以上の人の在職老齢年金が改正されるとメリットがあるのは、比較的経済的にゆとりのある高齢者です。
改正に反対する人からは、金持ち優遇という意見があるのはもっともなことです。
金持ちに年金を支給するために年金財源を痛めるのは事実だからです。
高所得者の年金は寄付できる仕組みがあってもいいのでは?
経済的にゆとりのある人のなかには、「働いている間は年金いらないよ」という人もいるかもしれません。
在職老齢年金の対象にならない株式投資や不動産投資の資産家にも、年金はいらないという人もいるかもしれません。
「消費税増税は景気にマイナスだが、国民の安心感につながる」と何を言っているのか分からない発言した人がいましたが、高所得の高齢者のなかには、子供や孫の世代のことを思って、社会保障財源と将来世代の安心のために年金を辞退してくれる人がいるかもしれません。
現状でも年金の辞退は制度としては存在しますが、辞退してもなんの特典もありません。
辞退した人には、所得控除などの寄付扱いができるようになれば、辞退者の増加が見込め、年金財源への影響は少し緩和されるのではないでしょうか。
参考:厚生年金保険・国民年金の年金受給権者からの申出による年金給付の支給停止件数は、1,036件(平成30年3月末現在) 出典:日本年金機構
在職老齢年金の支給停止額改正 まとめ
在職老齢年金は今の時代に合っていない制度なので改正されることには賛成です。
しかし、今回の改正は対象者が高所得者のみとなり、金持ち優遇という批判があるなど、不公平感があることは間違いありません。
日本の年金制度は良くできた制度ですが、世代間の不公平感、年金保険料の未払い増など、多くの問題があります。
今回は在職老齢年金制度の改正点を紹介しましたが、在職老齢年金だけでなく、時代に合わなくなった部分や不公平感のある部分は改正を進めてほしいと思います。