シェアハウス「かぼちゃの馬車」の運営会社スマートデイズが経営破綻した問題ですが、スルガ銀行の行員の関与が疑われ、融資審査が問題になっています。

運営会社のスマートデイズが経営破たんしてしまったため、被害者弁護団の矛先は融資をしたスルガ銀行に向いています。

この記事では、スルガ銀行不正融資問題で貸した側の銀行の責任はあるのか説明します。

判例で認められた銀行の貸し手責任

判例

銀行の貸し手責任が認められた裁判例は少ないのですが、「最一小判平成18年6月12日」という判例があります。

銀行が建築会社を紹介し収益物件の建築を提案した事案です。

事実関係

①取引銀行から土地の有効利用についてノウハウのある建築会社を紹介された。
②銀行・建築会社から建物の建築・投資プラン・返済プランを提示された。
自己資金28,770万円及び銀行からの借入金9,000万円の合計37,770万円で
建物を建築し,建物の賃貸部分からの賃料収入を借入金の返済等に充てた場合の
具体的な資金計画等が記載されていた。
③自己資金については,建物を建築した後,本件北側土地を約3億円で
売却することによってねん出することができると説明した。
④計画に基づき建物の建築請負契約を締結し、建物を建築した。
⑤銀行は建物の建築資金等として合計46,450万円を貸し付けた。
⑥売却予定だった北側土地を売却すると容積率オーバーで違法建築物と
なることが分かる。
(建築主・銀行担当者はこの問題を知らなかった)
⑦建築主事が敷地の二重使用に気付かなければ建物の建築に支障はないとの
見込みに基づいて計画を進める
⑧建物完成後、北側土地が予定通りに売却できず返済が滞り競売となった。

原告の主張

・貸し付けを受けて建物を建築したのは、北側土地が3億円で売れて資金調達ができることが前提だった

・実際には売却をしてしまうと、違法建築物となってしまうため売却は不可能で、もともと返済の目途がたたない計画だった

判決の概要

建築会社の担当者が顧客に対し計画には、建築基準法にかかわる問題があることを説明しなかった点に説明義務違反がある。

銀行には、収益物件の建築基準法上の問題や隣地の売却可能性を調査し、顧客に説明すべき信義則上の義務を認める余地がありうるとして、控訴審判決を破棄差し戻しました。

考慮された特段の事情

一般に消費貸借契約を締結するに当たり,返済計画の具体的な実現可能性は借受人において検討すべき事柄であり,本件においても,銀行担当者には,返済計画の内容である本件北側土地の売却の可能性について調査した上で、上告人に説明すべき義務が当然にあるわけではない。

裁判所は一般論として、返済計画の実現可能性についてm上記のように説明しています。

しかし、裁判所は以下の特段の事情を考慮して、控訴審判決を破棄差戻しとしています。

①銀行が土地の有効利用を図ることを提案して建築会社を紹介
②北側土地の売却により、返済資金をねん出することを前提とする収益物件に関する経営企画書や投資プランを作成し、建築会社担当者と共にその内容を説明
③銀行担当者が上記説明をした際,北側土地の売却について、銀行も取引先に働き掛けてでも確実に実現させる旨述べる

建築会社を紹介した、返済計画を立てたというだけでは、返済計画が破たんしたとしても金融機関に説明義務違反を認めていませんが、銀行の積極的な関与などの特段の事情があれば、銀行の貸し手責任を認めるという事例です。

かぼちゃの馬車問題でスルガ銀行の貸し手責任が認められるのか?

銀行

銀行が融資をしなくて会社が倒産したり、経営に行き詰った会社から融資金を過剰に過剰に回収したり、銀行が悪者になるのはお金を貸してくれない時が多いのですが、貸し手責任はお金を貸した責任を追及するという責任です。

返せない人にお金を貸すと貸したお金が返ってこないので、銀行は困ってしまいます。

貸したお金が返ってこなければビジネスにならないので、普通は返せない人にはお金は貸さないのですが、銀行員のノルマ達成のためなどの理由で、ごく稀に起きる問題です。

上記の判決で裁判所は、「返済計画の具体的な実現可能性は借受人において検討すべき事柄」としていますので、貸し手責任が認められるかどうかは、特段の事情の有無が焦点になると思います。

・不動産業者がスルガ銀行に提出する融資の審査書類で、購入者の預金残高や年収を水増しした書類を作成。
・スルガ銀行は通帳の原本などの確認を怠り、審査を通していた。

融資にあたってスルガ銀行には、年収や資産背景の審査規定や融資額は、物件価格の90%以内という規定があります。

不動産業者は自己資金や年収の資料を偽造したり、フルローンやオーバーローンで融資を受けさせるために実際の契約書とは別に、販売価格を高くしたローン用の契約書を作成しスルガ銀行から融資を引き出していました。

フルローンやオーバーローンを斡旋している自称「融資に強い不動産業者」が、エビデンスの偽造や二重契約が行っているのは業界では知られた事実でしたが、銀行員はあくまでも知らないということになっていました。

銀行側が知らなければ、銀行は融資金をだまし取られた側なのですが、かぼちゃの馬車の案件では銀行員が偽造に関与している証拠が出ているので、「銀行員の関与が特段の事情と認められるか」、「銀行員の関与が個人の責任か銀行組織の責任か?」が貸し手責任が認められるポイントになりそうです。

個人的にはスルガ銀行が、法人として貸し手責任を追及される可能性は低いと思います。

この問題のせいで株価が1/3くらいに下がっていますので、株主から訴えられる可能性の方が高いのではないでしょうか。

今後の収益物件への融資はどうなる?

 
アパートローン

今のところ、私がヒアリングした銀行では、かぼちゃの馬車問題が原因で融資基準を厳しくしたという話しは聞きません。

融資基準は厳しくなっていないけれど、手続きを厳しくした銀行はあるのかもしれません。

先日、日経新聞に一物件一法人スキームの記事がでました。
※6月26日日経新聞「不正融資の黙認、スルガ銀だけじゃない」
これだけ報道等がされているので、エビデンスや契約書の原本確認の徹底など、銀行も気をつけるようにはなると思います。

数年前から金融庁はアパートローンの監視を強めていました。
参照:日銀アパートローン監視強化 収益物件は積算評価が高ければ安全?

金融庁長官は退任しますが、新しい長官の下でも金融庁が、今までの方針を変えなければ、「将来的な賃貸需要見込み」・「金利上昇リスク」・「空室・賃料低下リスク」、このような審査項目が加わり、土地建物の価値、借り手の属性だけの評価ではなく、事業性融資としての側面が強くなるのではないかと思います。


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