不動産・住宅情報サイトLIFULL HOME'Sによると目黒区の建物面積100m²の場合の中古一戸建て平均価格は8,279円です。
しかし、日本全国で見ると500万円以下で買える戸建がたくさんあります。
この背景には深刻な地方の空き家問題があります。
この記事では、日本の空き家問題とストックの活用が進まない理由について説明します。
目次
空き家はストックか?
第30回不動産部会で配付された国交省の資料によると、賃貸用又は売却用の住宅等を除いた空き家の320万戸のうち、耐震性があり、不朽・破損のない空き家は103万戸です。
参照:空き家等の現状について 国交省
103万戸のうち駅から1㎞圏内で簡易的な修繕で利用できる空き家は48万戸とのことです。
空き家のうち約70%が耐震性不足か壊れている家で残りの約30%のうち15%は駅から1㎞以上の不便な立地条件で利活用が困難ということ調査結果が出ています。
耐震性を満たし、利活用ができるストックと呼べるような空き家は、15%程度というのが現状です。
海外の空き家問題との比較
日本の空き家率は13.5%、アメリカは10%程度、イギリスは2.6%程度です。
日本の空き家率が高いことが分かります。
海外では雇用の流動性が高いこともあり、引越しが多く、売ることを考えて住宅を購入するため、できるだけ長持ちする家を建てたいという考えのようです。
「家は一生に一度の買い物」と言われる日本とは社会情勢や民族性の違いも影響しているのかもしれません。
ストックと言える空き家が15%しかない理由
①日本は地震大国
2000~2009年にかけての調査によると全世界のマグニチュード5.0の10%、マグニチュード6.0以上の地震の20%が日本周辺で発生しています。
日本は地震の多い国なので耐震基準を満たさない住宅はストックとして利用することはできません。
②新築志向でリフォームをしない
日本における全住宅流通量(既存流通+新築着工)に占める既存住宅の流通シェア13.5%です。(平成20年:住宅・土地統計調査・住宅着工統計)
つまり住宅を購入する10人中1~2人弱が中古住宅を購入するということになります。
一方、海外では例えばフランスが66.4%、アメリカが77.6%、イギリスにおいてはなんと88.8%という非常に高い中古住宅供給率を誇っています。
住宅投資に占めるリフォームの割合は、2011年時点で日本が27.9%なのに対して、イギリスは57.3%、フランスは56.4%、ドイツは76.8%となっており、日本の倍以上の費用をリフォームにかけていることが分かっています。
③低品質な住宅
日本の住宅は高度経済成長期に「質より量」で建てられたものが多く、住宅の質としては良いものではありません。
例えば、冬の家が寒いのは日本だけの話で欧米の住宅は断熱性能が格段に高いのです。
建材メーカーのYKK APによると海外の住宅に比べて日本の窓の断熱基準は低いそうです。
「新耐震基準」後の建物なら耐震性においては世界に類をみない構造強度を誇っていますが、断熱性能は低レベルということです。
近年では省エネ住宅や気密性の高いマンションの分譲などで断熱性能は上がっているため築年数の古い物件の断熱性能の低さが際立ってしまいます。
空き家問題を解決するには
①未熟な不動産市場を改善
以前に書いた記事で、日本の不動産市場の問題点を指摘しました。
参照:日本の不動産取引の現状と問題点 ①
日本では中古住宅、特に建物に関する情報が極端に少なく購入者は安心して中古住宅を購入することができません。
市場の透明性が非常に低く、中古住宅の成約データーが蓄積されていないことも中古住宅の取引が増えない一因です。
日本には木造住宅の法定耐用年数が22年のため「25年で建物の価値はゼロになる」というマインドがあります。
成約データーが少ないため建物を含めた不動産価値が正しく査定できず、上記のマインドの影響もあって実際に建物が使用できる状態であるかどうかは重視されません。
結果として築年数の古い物件は壊して更地にしたほうが高く売れるという現状になっています。
後述するインスペクションの普及が進まないことも中古住宅の流通が増えない原因と考えられます。
②インスペクションの普及
インスペクションとは建築士など専門家が建物の劣化や不具合などの調査を行い、欠陥の有無や補修すべき箇所などを客観的に検査するものですが現状ではそれほど普及していません。
そんな現状を変えるためインスペクションが活用されるように宅建業法の改正(平成30年4月1日施工)が行われました。
インスペクションが普及しているアメリカやイギリスなどは、購入した家に不具合があった場合、補修の責任は買主にあります。
そのため、購入する家に不具合がないか買主が費用を負担して、インスペクションを行います。
日本は売主が責任を負うため普及が進まない面もあると思いますが、民法改正で買主保護が強まるため、売主がトラブル回避の目的でインスペクションを行うケースが増える可能性はあります。
③法定耐用年数と担保評価
日本の木造住宅の法定耐用年数は22年で22年経つと価値はゼロという考え方です。
アメリカでは法定耐用年数が27年ですから日本だけが極端に短いわけではありません。
アメリカでは売買時、インスペクションし必要な修繕箇所を修繕すると、耐用年数がリセットされ、買主は更に27年の減価償却を受けることができる制度があります。
日本では、税務上は修繕した部分の減価償却を受けることはできますが、耐用年数がリセットされるわけではないので、中古住宅を買った人は築年数に応じた耐用年数となります。
自宅は減価償却できないので、税務上の恩恵があるのは収益物件だけということになりますが、耐用年数の問題は銀行の融資に関連します。
住宅ローンを利用する場合には、銀行もある程度条件を緩和していますが、収益物件については、厳格に耐用年数期間内しか融資をしない銀行が多く、修繕は考慮されないことが多いです。
ストックの有効活用という点では、リフォームされた状態の良い建物も、放置された廃墟のような建物も、同価値と査定されてしまう耐用年数重視の銀行の担保評価については、現実に即しておらず中古住宅の流通を阻害していると言えます。
建物の耐用年数に関連してこんな記事が出ていました。
「西武信金、投資用不動産に過剰融資か 耐用年数を法定の2倍に」
この記事は西武信金が不動産鑑定士に依頼し、対象物件の耐用年数を法定を大幅に上回る水準で独自に算出したことを問題視しています。
法定耐用年数は減価償却処理をするときの基準で、実際の建物の寿命とは無関係です。
耐用年数について新聞社が不勉強だった可能性はありますが、不動産鑑定士に依頼して耐用年数を算出しても、法定耐用年数を超えると、不動産鑑定士とグルになって不正行為を行ったような視点で、問題視されてしまうのが不動産融資の現状です。
空き家の所有者になる可能性がある人は
不動産関連の比較査定サイト「スマイスター」を運営するリビン・テクノロジーズ株式会社が「実家が空き家になる可能性」を調査したところ、『ある』(30.4%)、『既になっている』(9.7%)と答えた人が約40%という結果が出ています。
日本の戦後の特殊な住宅事情や新築志向など深く根付いているマインド、東京一極集中などの事情で空き家の問題は簡単に解決できるものではありません。
前出の国交省の調査資料によると、空き家の取得原因は相続が半数を占めています。
将来的に自分が空き家を相続することは予測できるのですから、予め対応策を考えておくことができます。
空き家は地域や立地条件によって対策が変わります。
取得する空き家が便利な場所にあれば、売却や賃貸による活用ができる可能性があり、空き家の処分に困ることはないかもしれません。
売却時に利益がでても、「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」が適用できれば、税金の負担を軽くすることができます。
※適用要件がたくさんあるため、事前の準備が必要です。
一方で、地方では住宅需要が少ない地域があり、その場合は利活用が困難なケースもあります。
自治体によっては空き家の利活用や除去(解体)のための助成がある場合がありますので、空き家の所有者になる可能性があるのなら、空き家の所在する市区町村の助成制度を調べておくと良いでしょう。
空き家を取得すると、管理の手間もかかりますし税金の負担も発生しますので、相続などで空き家の所有者になった(相続する可能性がある)場合には、利活用の可能性などを専門家に相談することをお勧めします。