前回に続いて、民法改正の不動産賃貸業への影響についての話です。
この記事では、敷金に関する民法改正について説明します。
目次
民法改正 敷金関連の改正点
現行民法では「敷金」に関する規定がありませんでした。
何をもって「敷金」というのか、いつ返還すればいいのか、敷金と不払い賃料の取扱いなどは民法の解釈と判例で解決されてきました。
改正民法では、以下の敷金の明文規定を作っています。
①敷金は名目の如何を問わない
敷金だろうが、保証金だろうが、名目は問わず賃借人から賃貸人に交付する金銭で、賃貸借契約に基づく、賃借人の金銭債務を担保する目的であるものは、全て「敷金」と定義されます。
②敷金の返還時期
「賃貸物の返還を受けた時」、「賃借権を適法に譲渡した時」とされています。
敷金の返還と賃貸物の返還は同時履行ではありません。
返還された建物を見ないと敷金の清算はできませんので当然です。
賃借権が譲渡された場合には、旧賃借人に敷金を返還して新賃借人から敷金を預かります。
旧賃借人と新賃借人との間で、敷金返還請求権の債権譲渡がされていれば、旧賃借人への返還は不要です。
③賃借人は未払い賃料について敷金充当を主張できない
賃貸人は未払い賃料を敷金から充当できますが、賃借人からは請求できません。
実務上は、当然のように行われていましたが、明文化されました。
④原状回復の規定を明文化
現行民法には、賃貸借契約が終了したときに、賃借人が原状回復義務を負うという直接の条文はありません。
民法598条(借主による収去)を賃貸借に準用していましたが、原状回復の内容が明確とは言えず、多くのトラブルを生みだしていました。
改正民法では、賃借人が賃貸借契約終了時に原状回復義務を負うことが明文化され、あわせて賃借人は通常損耗については、原状回復義務を負わないことが明文化されました。
通常損耗とは、普通に生活していれば生じてしまう汚れや劣化のことです。
これは現在の原状回復ガイドラインと同じ内容です。
現在の運用と同様に、ハウスクリーニング費用や通常損耗について賃借人が負担する特約をすることは可能です。
そのためには、賃借人が負う原状回復義務の範囲を、契約書に明記することが必要となります。
自主管理の不動産オーナーや、昔からある地場の不動産業者は、ガイドラインについて、あまり理解していない人が多くいます。
今まで、当たり前のように賃借人に請求していたものが、自己負担になる可能性があります。
実務では、敷金は返還することが当然となりつつありますの、で民法改正と合わせて原状回復ガイドラインを再度見直すことも必要だと思います。