スルガ銀行の不正融資問題以降、金融機関の不動産融資は基準の厳格化などが行われ、以前と比べて厳しい状況が続いています。

投資用不動産の販売をしていた不動産会社は融資の厳格化によって物件が売りづらくなり、収益が厳しくなっています。

そこで不動産会社が取り組み始めたのが住宅ローンを利用できる「賃貸併用住宅」です。
当然のことながら賃貸併用住宅はメリットだけでなく、デメリットもあります。

この記事では、数年後には賃貸併用住宅で不動産投資に失敗した人が続出ということにならないよう、賃貸併用住宅を建築(購入)する時の注意点を説明します。

投資用不動産融資厳格化で賃貸併用住宅が注目される理由

①住宅ローンが使える

一般的には、居住スペースが物件全体の51%以上あれば、住宅ローンが使えます。
自宅を取得するための住宅ローンは住宅取得を促す政策の影響もあり、事業目的のアパートローンよりも低金利なうえに審査が通りやすいこともあり、賃貸併用住宅が注目されています。

②住宅ローンの負担を家賃収入で軽減できる

賃貸部分に入居者がいれば、住宅ローン返済の一部もしくは全額を家賃収入でまかなうことができます。

③節税対策ができる

【所得税・住民税】

賃貸部分の建物は減価償却ができます。
減価償却は実際にお金の支出のない経費のため、減価償却費分について節税効果があります。

【相続税】

一般的に不動産は現金などの資産と比べて相続税評価額が下がります。
さらに賃貸住宅は自己居住用の不動産よりも相続税評価額が下がります。(貸家建付地)
貸家建付地の場合、自宅に比べて土地が約20%、建物が約30%程度の評価減になります。

賃貸併用住宅の場合には賃貸部分について貸家建付地の評価になるため、同じ面積の自宅よりも評価額が低くなります。

④建物の見栄えが良い

自宅と賃貸部分をもつ賃貸併用住宅は、建物の規模が大きくなり、一般的な戸建て住宅と比べて住宅としての外観は豪華になります。

豪邸のような見た目で、自宅としての見栄えは良くなります。

賃貸併用住宅のデメリット

賃貸併用住宅のデメリット

①建築費が一般住宅に比べてかなり高い。

賃貸併用住宅は自宅+賃貸部分を作るため建物は広くなります。
建物が広くなれば、当然建築費は高くなります。
賃貸部分の各部屋にそれぞれユニットバス・洗面化粧台・キッチンなどの設備が必要になるため坪単価が高めになります。

②建物価格が高いために条件の悪い土地で購入してしまう。

賃貸併用住宅の中古物件はほとんど流通していないので新築が基本路線になります。
土地建物の予算が8,000万円とすると建物が4,000万円なら土地の予算は4,000万円、建物が5,000円なら土地の予算は3,000万円です。

賃貸併用住宅を検討する人は金利の低い住宅ローンで借入をすることを前提としています。

住宅ローンは借りる人の年収から借入額の上限を設定しますので、予算は普通の戸建て住宅を買う場合と同じになります。賃貸部分の家賃は返済の助けにはなりますが、見込みの賃料は銀行の審査段階では収入に計上されません。

土地建物の予算が決まっていて、建物部分の建築費が高いということは土地の価格を抑えるしかありません。
土地が安くなるということは条件が劣るということになります。

③ローンの借入額が大きくなる

一般的な住宅に比べて、賃貸部分がある分、広い面積が必要となり物件価格は高くなります。
物件価格が高くなるということは住宅ローンの借入額も大きくなります。

④賃借人とオーナーの距離が近い

入居者との距離が近いため、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。
賃貸住宅の一般的なトラブル(騒音・ゴミ出し・人間関係の悪化など)を自宅で抱えてしまうかもしれないのです。

しかも、賃貸住宅の入居者は借地借家法という法律に守られています。
全てがオーナーの思い通りにならないことは理解しておかなければなりません。

賃借人からしてみれば同じ建物内にオーナーがいるので、管理会社に委託していても入居者から直接クレームが届く可能性があります。
逆に入居者側がオーナーが同じ建物に住んでいることを嫌がり選択肢から外すケースもあります。

参考:アパート管理でトラブルになるのはどんな時?

⑤売却しづらい

賃貸併用住宅は、建物の間取りが特殊です。
特殊な間取りは需要が少なく、需給の問題で価格が安くなることが多くなります。

誰もが自宅の一部を利用してでも賃貸収入を得たいというわけではないので、一般の住宅よりも流通性で劣り、購入時(新築時)にかけた多額の費用や住宅ローンの残債を下回る金額でしか売却できないかもしれません。

⑥家賃が下がると返済計画に影響する

一般的に建物が古くなれば家賃が下がります。

家賃を下げなければ、空室が増えて思ったような家賃収入が得られない可能性があります。

住宅ローンは元利均等返済で返済している場合が多く、返済期間中の返済額は一定です。建物が古くなって家賃が下がってもローンの返済額は変わらないのです。

賃貸併用住宅を勧める、こんな営業トークに注意

営業

①賃貸併用住宅にすることで、住宅ローンの一部、または全部を家賃収入でまかなうことができるため、資金的に難しいと思われていた土地購入や建て替えも実現できる。

借入可能な金額と実際に返済ができる金額は違います。
家賃収入を当てにして無理なローンを組んでしまうと破綻をしてしまう可能性があります。

資金的に難しいけれど、家賃収入があるから実現できると言うのは危険な考え方です。

不動産賃貸業は空室リスクや滞納リスクなど、家賃が入金されない場合があります。
賃貸併用住宅は自宅を兼ねているのですから、ローンの支払いが滞ってしまうと、最悪の場合は自宅を差押えられてしまいます。

賃貸併用住宅に限ったことではありませんが、一定の空室・賃料の減価を考慮した資金計画をたてて、無理な資金繰りで不動産を購入するのはやめましょう。

②ローン完済後は家賃収入という不労所得が得られる。

ローン完済後は運営経費を差し引いた家賃収入は収入源として期待できます。
家賃収入はある程度安定した収入源ですが、不労所得ではありません。

不動産賃貸業は適切な物件管理、入居者管理など多くの業務があります。
家賃収入は不労所得ではなく、事業の結果として得られる所得であることを認識して賃貸併用住宅を建設・運営する必要があります。

③しばらく自分で自宅部分に住んだ後、自宅部分も賃貸に出すと利回りが上がる

住宅ローンは“住むための家”を買うためのローンです。
自分が住まなくなった時点で住宅ローンの対象ではなくなります。

自分が住まなくなり賃貸へ出す場合には、金融機関に相談したうえで、アパートローンに変更をしたり、別の金融機関のアパートローンに借り換えをすることになります。
(転勤等やむを得ない事情の場合は相談の余地あり)

アパートローンへ変更すると、住宅ローンよりも金利が高くなる可能性が高いですし、他の金融機関へ借り換えの場合には経費がかかります。

金融機関からはローン償還表など定期的に郵便物が届きます。
住宅ローンの債務者が自宅に住んでいないことはすぐに金融機関に知れてしまいます。

金融機関に無許可で自宅部分を賃貸に出すことは絶対にやめましょう。

賃貸併用住宅は不動産投資とは分けて考える

賃貸併用住宅は不動産投資とは分けて考える

世の中の不動産投資セミナーは中古1棟マンション投資から新築投資、小口不動産投資(区分所有など)、賃貸併用住宅にトレンドが移ってきました。

金融機関の融資姿勢に合わせて移行しているのでしょうが、不動産は融資が受けられることを理由に買うものではありませんし、賃貸併用住宅は少なくとも1/2は自宅を含むのですから、家族が暮らすためのさまざまな条件面のこだわりがあるはずです。

賃貸併用住宅は自宅の一部を賃貸するという面で、アパート・マンション経営とは違った検討事項がありますので、不動産投資とは分けて考える必要があります。

  • 自分と家族が生活するための条件を満たす物件を見つけられる(すでに所有している)
  • 自宅の一部を賃貸することによって家族のプライバシーが制限される可能性について家族の了承が得られる。
  • 資金的に賃貸併用住宅の建築・運営をできる余裕がある

上記の3点がクリアできる場合にのみ賃貸併用住宅は検討できるのではないかと思います。

くれぐれも賃貸併用住宅は住宅ローンを利用できる不動産投資とは考えないようにしてください。

 

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