積算評価が高い物件を探している人、たくさんいると思います。
信用棄損にならないために、「積算評価の高い物件を買いなさい」と書いてある本やコラムなどもたくさん見かけます。
本当に、収益物件は積算評価が高ければ安全なのでしょうか?
目次
金融庁・日銀がアパートローンの監視強化
4月19日に公表された金融システムレポートでは、「不動産市場は、全体として過熱の状況にはないと考えられるが今後、リスクプレミアムの過度な縮小や過度に強気な賃料見通しが生じることがないか、注意深く点検していく必要がある。」と指摘し「入口審査での収支計画の検証や中間管理の適切な実施等を通じて、与信管理能力を高めていく必要がある。」としています。
参照:金融システムレポート 2017年4月
過去の金融システムレポートでもこのように指摘しています。
参照:金融システムレポート 2016年3月
晩婚化や高齢化、人口の社会移動(地方圏→大都市圏、郊外→市街地)等を背景に、貸家需要が増加している。
貸家業向け貸出は、基本的には、こうした社会的要請に金融面から応えるものである。
貸家市場の動向は、様々な需給要因の影響を受けるが、いずれにせよ、金融機関において、貸家業向け貸出の実行段階における物件毎の収支見通しの検証、実行後の中間管理などは、自身のリスク管理として重要である。
貸家戸数がこれまで増加を続けてきた中で、空室率は、安定的に推移してきたが、今後の動向によって大きく変化し得る。
足もとの貸家のビンテージは、やや長めとなってきていることから、滅失はある程度増加していくとみられ、これは空室率の低下方向に作用するが、世帯数の減少転化という大きな環境変化が見込まれるだけに、需給の見極めがこれまで以上に重要になってきている。
①地域や物件特性等に基づく類型化やデータ・情報の整備
②入口審査における収支見通しの検証
(先行き入居率の妥当性検証方法や下方ストレスのかけ方等)
③中間管理の頻度やポートフォリオ分析等に、充実の余地がみられた。
金融機関は、これらの中から、自らの貸家業向け貸出の実情(残高の大きさ、営業推進方針等)を踏まえた対応を講じていく必要がある。
日本銀行は、各地域金融機関の取り組みの実情を踏まえつつ、考査・モニタリングを通じて必要な改善を促していく。
一部を抜粋してみました。
通常、収益物件は収益還元法で評価をします。
積算評価は、土地建物の価格を計算するだけなので、運営リスクが反映されません。
日銀は、入口審査における収支見通しの検証に、充実の余地があるとしています。
貸家業向け貸出に係る与信管理上の入口審査
①収入項目
物件所在地における経年別家賃相場・入居実績や、先行きの人口・世帯推計を踏まえた家賃・空室率の検討・設定
②支出項目
運営費用(委託管理費、管理費、修繕費、大規模修繕費用等)、固定費用(税金、保険料)等の検討・設定
③キャッシュフロー分析
融資期間に応じたキャッシュフローの安定性分析(DSCR の確認等)、ストレス事象(収入の減少、金利上昇等)を前提としたリスク評価
④上記の①~③の収支シミュレーションに基づくキャッシュフローをキャップレート(当該物件に対する期待利回り)で割った割引現在価値等による物件価格評価=収益還元法
⑤事業主の非賃料収入や他の保有資産の確認
日銀は、上記の分析結果をもとに、案件採り上げの可否のほか、採り上げ条件(自己資金の投入要否や融資期間)を決定するように改善を促していくと言っています。
アパートローンの物件評価は、運営リスクを考慮して、収益還元法を使いなさいということです。
収益還元法は難しい
そう言われても、「収益還元法で評価をするのは難しい」という金融機関側の都合もあります。
金融機関が、収益還元法を採用できない理由として、還元利回りの設定が難しいことがあげられます。
還元利回りは、取引事例や販売中物件の利回り、公開されているデーターを参考に算出するのが一般的ですが、日本の不動産市場は情報公開が進んでいないため、金融機関は還元利回りを算出するための根拠が集められません。
そのため、収益還元法で評価をする場合は、外部の評価機関に依頼している金融機関もあります。
外部に依頼すれば費用がかかるので、なるべくなら内部で評価ができる積算評価を採用したいということなのだろうと思います。
積算評価は投資の安全性とは直接関係ない
日銀や金融庁が、「収益還元法で審査をしなさい」と言っても、すぐに状況が変わるわけではないでしょう。
しばらくの間は、積算評価が高い物件は融資がつきやすい傾向が続くと思います。
しかし10年15年と経過して、物件を売却する事情ができた時に、将来にわたって同じ審査基準であるという保証はどこにもありません。
融資がつかない物件=購入者が少ない→価格が安くなる(需給のバランス)
投資の安全ということを考えるのなら、土地建物の評価ではなく、多少環境が悪化したとしても収支がマイナスにならない(急いで売る必要がない)キャッシュフローを得られる物件を購入し、安全な資金計画をたてること。
投資の安全のためには、これが大切なのではないでしょうか。