不動産向け融資、バブル期以来の過熱サイン

4月17日に日本銀行が公表した金融システムレポートで、不動産業向け貸し出しが1980年代後半のバブル期並みの過熱サインを示しました。
http://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/fsr190417.htm/

■金融システムレポートとは?
日銀が金融システム全体の状況についての分析・評価を行うレポートで、原則年2回公表しています。
金融市場からみたリスクの所在、金融経済活動において行き過ぎた動きがないか、金融機関の財務基盤の充実度などを点検、検証し、金融機関の課題を示しています。

この記事では、投資用不動産向け融資にも影響のある金融システムレポートの内容を確認してみます。

不動産業向け貸し出し、バブル期との比較

バブル期投資用不動産向け融資

今回のレポートでは、不動産業向け貸し出しの対GDP比率だけが、バブル期並みの過熱水準を示す赤色となりました。

現在は不動産賃貸業向けの融資は厳しくなっており、新規実行額が減少しているなかでも、残高が伸びを続けているのは、賃料収入から所要経費を差し引いたキャッシュフローによって元利返済していくことを前提とする長期貸出であることが要因のようです。

日銀は「近年の不動産業向け貸出のバブル期との違いは、大型の不動産取引業向けよりも、不動産賃貸業向けの貸出が増加していることである。」と指摘しています。

①バブル期の不動産業向け貸出

借手は不動産業のほか建設、ノンバンクを含む⼤⼿関連業者
地価上昇による転売益を狙った不動産取引のファイナンス需要

②現在の不動産業向け貸出

借手は貸家業を営む個⼈を含む、幅広い投資家
賃料収⼊から所要経費を差し引いたキャッシュフローによって元利返済していくことを前提とする⻑期貸出

不動産業向け貸出の増加、日銀が指摘する問題点

不動産業向け貸出の増加、日銀が指摘する問題点

・地域金融機関では、貸出全体に占める不動産業向け貸出の比率が上昇を続けており、同比率が3割を超える先がみられる。

・不動産業向け貸出比率を高める金融機関ほど、⾃⼰資本比率が低い傾向も窺われる。

・不動産業向け貸出の増加は、大型の不動産取引業向けが中心であったバブル期とは異なり、REITや不動産ファンド、個人による貸家業といった賃貸収入目的の中長期投資向けが中心となっている点に特徴がある。

・中小企業や個人など、必ずしも損失吸収力の高くない借り⼿の比重が高い。

不動産賃貸業向けの貸し出しは、借り手が幅広い投資家に分散しているが、全体としては、中長期の空室増加・賃料下落といった共通リスクに晒されている。人口や企業数の減少、成長期待の低下といったバブル期とは異なるファンダメンタルズのもとで、将来の物件需要に対して過大投資となっていないかという点は注視していく必要がある。

不動産融資で日銀が金融機関に求めるリスク管理

不動産融資で日銀が金融機関に求めるリスク管理

日銀は貸家業からの資金需要は、比較的高い貸出金利が確保できる不動産業の近年におけるデフォルト率の低さ、不良債権比率の低さも、同産業向け貸出を積極化させる誘因だと分析しています。

現在の不動産市場については、バブル期のような過熱状態にはないとしても、貸出対象や期間等の面で、当時とは性質の異なるリスクが蓄積されている可能性があるとしており、貸出実行時点における実査、キャッシュフロー計画の妥当性確認等を適切に行うとともに、実行後の管理(空室率・賃貸収入のモニタリング、適切な引当の実施等)を貸付期間を通じて継続していく必要があるとしています。

また、アパートローンは一般的に返済期間が長く、残高が積み上がりやすいため、リスクが長期化します。

景気悪化時に不動産市場の流動性低下により大幅な価格下落が発生する可能性も意識したリスク管理を金融機関に求めています。

過去の金融システムレポートの不動産関連の記載

過去の金融システムレポートの不動産関連の記載

過去の金融システムレポートの不動産関連の記載を見ると、その後の不動産向け融資に大きな影響があることが分かります。

①2015年4月

「不動産業実物投資の対GDP比率」が過熱方向に変化した。
もう1つの不動産関連指標である「不動産業向け貸出の対GDP比率」に過熱感はなく、不動産の取引量や価格動向など、その他の幅広い情報も含めて総合的にみれば、不動産市場に過熱感はみられていない。

②2015年10月

多くの指標は、リーマン・ショック前の不動産ブームの頃を下回っており、不動産市場全体としては過熱の状況にはないと考えられる。
ただし、東京都心等では高額物件取引もみられている。また、銀行の不動産関連投融資も積極化しつつある他、中小の低信用先の資金調達では借入れが増加する兆しも窺われている。

不動産向け融資が増えて日銀が警戒を始めると下記のレポートが出されます。

③2016年3月 金融システムレポート別冊シリーズ

地域金融機関の貸家業向け貸出と与信管理の課題
・地域や物件特性等に基づく類型化やデータ・情報の整備
・入口審査における収支見通しの検証(先行き入居率の妥当性検証方法や下方ストレスのかけ方等)
・中間管理の頻度やポートフォリオ分析
等に充実の余地がみられた。

金融機関は、これらの中から、自らの貸家業向け貸出の実情(残高の大きさ、営業推進方針等)を踏まえた対応を講じていく必要がある。

このレポートを機に日銀はアパートローンへの警戒感を強くしていきます。

④2016年10月

大都市圏を中心とする地価や取引額の上昇傾向、不動産大企業の実物投資や負債調達の増加など、不動産市場が徐々に活発化していることを示す動きが引き続きみられるほか、先行きを展望すると、東京オリンピック関連をはじめ、大都市圏での建設・再開発の動きが継続すると考えられる。
マイナス金利環境の今後の影響も含め、不動産市場の状況については、今後も注意深く見守っていく必要がある。

⑤2017年4月

地域銀行の不動産業向け貸出は、近年、賃貸不動産業向けを中心に増加。これには、地域景気の改善や金利の低下が寄与している。
ただし、近年は、不動産業向け貸出残高の実績が、経済の実勢で説明できる水準(推計値)から上方に乖離。


また、個別行毎の乖離率の分布をみると、九州などで一部の銀行が、経済の実勢に比べ貸出を大幅に増やしている。
地域によっては、賃貸住宅の空室率が高まっており、これまで以上に入口審査や中間管理の綿密な実施が重要。

⑥2017年10月

不動産業向け貸出は、高めの伸び率で増加を続けているが、その増勢は足もと幾分鈍化。
新規実行ベースでは個人による貸家業向けが前年比マイナスに転じているほか、個人の資産管理会社や地場の不動産業者を含む中小企業向けの伸び率も急速に低下。

⑦2018年4月

全体として過熱の状況にはない。不動産業向け貸出残高の対GDP比率は上昇しているが、金融機関の間では、不動産市場の調整リスクや与信の業種集中などを意識し、貸出スタンスを慎重化させる動きが徐々に広がっている。

⑧2018年10月

貸出特性を踏まえたリスク管理の向上が必要。
不動産賃貸業向けの貸出期間は比較的長期に及ぶ。人口減少による賃貸アパートの需給緩和というストレスが全国各地で共通かつ慢性的にかかり続けるもとで、借り手の返済原資である家賃収入が長期間にわたって共通リスクに晒される。
適切な引当率の設定や審査・管理の改善等を通じて、リスク管理の実効性を高めていく必要がある。

2019年4月レポートの投資用不動産向け融資への影響

アパートローンイメージ、お金お金と家

過去のレポートが金融機関の融資姿勢に大きく影響していることは間違いありません。
参照:日銀アパートローン監視強化 収益物件は積算評価が高ければ安全?

今回のレポートで日銀は地域金融機関に、ミドルリスク企業向けや不動産業向け貸出、投資信託を通じる投資拡大等に対応した管理強化を求めています。

実行後の管理(空室率・賃貸収入のモニタリング、適切な引当の実施等)を貸付期間を通じて継続しなさいと言っていますから、金融機関は、その部分にも人員とコストを割かなければならなくなります。

アパートローンを融資しすぎると金融庁には目をつけられ、実行後の管理も面倒となると、ますます投資用不動産向け融資は厳しくなるかもしれません。

不動産買う人の大半は融資を利用します。
このような市況になると不動産価格は需給のバランスで下がる可能性があります。
融資をしてもらえる可能性のある金融機関の開拓をたくさんできた人が良い条件で物件が買えるという状況になってきたのかもしれません。

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