金融庁が報告書案「高齢社会における資産形成・管理」を金融審議会で示しました。
新聞等では「政府が年金など公助の限界を認め、国民の「自助」を呼びかける内容」と報道されています。
この記事の影響で「退職後の生活に困らないようにするための年金では無いのか?」「自助を求めるなら年金なんて払いたくない」などの反応があるようですが、報告書案を読んでみると、少し違う見方ができます。
この記事では「高齢社会における資産形成・管理」報告書案について説明します。
目次
日本の年金制度

まずは、前提として日本の年金制度について、簡単に説明します。
日本の年金制度は、20歳以上の全国民が公的年金制度でカバーされる国民皆年金です。
自営業者などは国民年金に,被用者とその配偶者は厚生年金に加入する2階建の設計です。
国民年金保険料は16,410円(令和元年度)、厚生年金保険料率は18.3%(労使折半)です。
国民年金の受給開始年齢は、原則65歳からです。
厚生年金は、支給年齢が段階的に引き上げられ、昭和36年4月2日以降生まれの男性、昭和41年4月2日以降生まれの女性は全額、65歳からの支給となっています。
加入月数に応じて決まる基礎年金の定額給付で厚生年金加入者は基礎年金にプラスして報酬比例部分が支給されます。
支給額については、毎年誕生月に届く、「ねんきん定期便」で確認できます。
50歳未満の人は現時点までに支払った保険料に基づいた年金額(今後の納付で支給額が増える)が、50歳以上の人には現在の状態のまま60歳まで納付を続け、60歳で納付をやめた場合を想定した年金額が記載されています。
※詳細は 「ねんきん定期便」の様式(サンプル)と見方ガイド を参照してください。
海外の年金制度

年金の支給年齢の引き上げや支給額が減っているのは日本に限ったことではありません。
参考までに海外の年金制度も確認してみます。
①アメリカの年金制度
アメリカの年金制度は1階建てで,被用者であるか自営業者であるかを問わず,米国に居住している就労者を対象として保険料を徴収します。
保険料率は12.4%(労使折半)で40 四半期以上の加入期間を持つ 66 歳以上の人が受給できる報酬比例年金です。
②ドイツの年金制度
社会保険方式の所得比例年金制度が職種ごとに分立しています。
被用者は18.7%(労使折半)、特定の職業に従事する自営業者は18.7%です。
労働者年金でスタートしていて、特定の業種以外の自営業者には公的な年金制度がありません。
支給年齢は65歳から67歳へ段階的に引き上げ予定です。
③スウェーデンの年金制度
・賦課方式で運営される所得比例年金と,拠出建て年金である積立年金からなる,保険料の拠出実績と給付がリンクする2階建て構造を採用しています。
保険料率は18.5%(事業主10.21%,被保険者7%)です。
61歳から受給が可能ですが、段階的に65歳に引き上げられる予定です。
日本に限らず年金だけで生活できる国は少ない
OECDの調べた年金の所得代替率のデータがあります。
所得代替率というのは、年金額が、現役世代の手取り収入額と比較してどのくらいの割合か示すものです。
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出典:厚生労働省 諸外国の年金制度について |
日本の所得代替率は約34%で諸外国と比較して低い水準となっています。
一方で公的年金だけで見ると決して低い訳ではありません。
諸外国は私的年金(準強制のものを含む)が所得代替率を上げていることがデータで分かります。
日本ではiDeCoやNISAの制度が拡充されつつあり、私的年金での資産形成を進めることができるようになってきています。
資産形成の必要性
報告書案では、長寿化に伴い資産寿命を延ばすことが必要だとしています。
資産寿命を延ばすために「現役で働く期間を延ばす」、「生活費の節約」、「若いうちから少しずつ資産形成に取り組む」という点が挙げられ、ライフステージ別に資産形成の要点が書かれています。
①現役期の資産形成
長寿化に対応し、長期・積立・分散投資など、少額からでも資産形成の行動を起こす時期。
早い時期からの資産形成の有効性を認識し、いざというときに備えた資金を確保しつつ、少額からでも長期・積立・分散投資による資産形成を行う。
②リタイヤ期前後の資産形成
金融資産の目減りの抑制や計画的な資産の取崩しに向けて行動する時期。
退職金がある場合、早期の情報収集と使途の検討。
必要に応じ、収支の改善策を実行し、中長期的な資産運用の継続とその後の計画的な取崩しを実行する。
③高齢期の資産形成
資産の計画的な取崩しを実行するとともに、認知・判断能力の低下や喪失に備えて行動する時期。
心身の衰えを見据えてマネープランを見直す。
金融面の本人意思を明確にしておき、自ら行動できなくなった時に備えておく。
金融リテラシーの向上
2016年の金融リテラシー調査によると、日本人の金融知識・判断力の問題についての回答の正誤がアメリカ・ドイツ・イギリスと比較して7~10%劣るということが分かっています。
金融商品や金融サービス、税制、教育制度等の面で事情が異なるため、一概に日本人の金融リテラシーが低いと言えるかは分かりませんが、金融庁は金融リテラシーの向上に重点を置いています。
関係省庁・企業・機関・地方公共団体等だけでなく、企業の従業員に対する投資教育の義務などについても言及しています。
お金のアドバイザーの充実

ライフスタイルが多様化し、金融商品・サービスも多様化しています。
金融庁は、総合的なアドバイスを提供できるアドバイスができるアドバイザーの重要性に言及しています。
アメリカでは証券会社などの金融サービス提供者から独立して、顧客に総合的にアドバイスするアドバイザーがいますが、日本には少なく、認知度も低い現状を指摘しています。
ファイナンシャルプランナーもアドバイザーとなりえる存在ですが、保険・金融などの商品販売側に在籍している人が多く、顧客のためのアドバイザーとなれるかは、その人の倫理観に依存しているのが現状です。
顧客側もアドバイザーに対して報酬を払う習慣がないため、中立なアドバイザーが活動しづらいという現実もあり、改善が必要です。
豊かな老後の生活には自助努力が必要
現状では、平均的な無職高齢世帯でも月に20万円程度の収入があり、ぜいたくをしなければ生活に困ることはないかもしれません。
しかし、少子高齢化、長寿化が原因で年金支給が調整されていくことは間違いありません。
新聞報道では、政府が自助を呼びかけたことだけが強調されてしまいました。
今までの日本では、リタイア後は年金で生活するモデルが当たり前だったので、自助を呼びかけられると納得のいかない部分もあると思います。
いくら批判をしても、現実は少子高齢化・長寿化で年金が減るのは避けられません。
今回の報告書案を金融機関に向けた資産形成への関わり方と国民に向けた「老後の生活を豊かにするために私的な資産形成のすすめ」だと読むこともできるのです。
今までの日本では、リタイア後は年金で生活するモデルが当たり前だったので、自助を呼びかけられると納得のいかない部分もあると思います。
いくら批判をしても、現実は少子高齢化・長寿化で年金が減るのは避けられません。
今回の報告書案を金融機関に向けた資産形成への関わり方と国民に向けた「老後の生活を豊かにするために私的な資産形成のすすめ」だと読むこともできるのです。
それほど長い内容ではないので、報告書案はぜひ読んでみてください。
健康と同様にお金も重要です。
年金は老後生活資金の柱ではありますが、長生き保険というような感覚で考えて、必要に応じて信頼できるアドバイザーを見つけて相談しながら、自分の資産状況を見える化し、資産形成を進める必要があるのではないでしょうか。