投資、節約、貯蓄の前に知っておきたい「聞いたことはあるけれど詳しく知らないお金の基本的な知識」を説明します。
第2回は老後不安の最大の原因 「公的年金はどのくらいもらえるのか」です。
人生には3つの大きな支出があると言われています。
①住居費、②教育費、③老後の生活費 の3つが人生の3大支出と言われるものです。
資産形成が必要なのは「③老後の生活費」を現役時代から少しずつ貯めておかなければリタイア後の生活に困ってしまうからです。
平成30年簡易生命表によると、男性の平均寿命は 81.25 年、女性の平均寿命は 87.32 年となっています。
長生きをするということは、お金が必要な期間が長くなるということです。
歳を重ねると働いてお金を稼ぐことは難しくなっていくため、老後の生活費は公的年金と資産の取崩しで捻出することになります。
資産形成というと取り崩すための資産に注目しがちですが、安定した収入となる年金の給付額をしっかり理解しないと目標額の設定ができません。
この記事では、公的年金制度の解説と給付額の計算方法について説明します。
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目次
みんな老後は不安

セコム株式会社の「老後の不安に関する意識調査」によると、老後の不安の理由は2年連続で1位「病気・ケガ」2位「経済的な負担」3位「介護」となりました。
選択肢の中でもっとも当てはまるもの1位は経済的な負担が1位となっています。
一方で半数以上が老後に備えた対策をしていないと回答。その理由は「具体的にどのような対策をすればよいか分からないから」が約6割となっています。
フィデリティ・インターナショナルの調査によると公的年金に不安を感じている人は約80%(不安・あまり安心できないと回答)という調査もあります。
同調査では若者層では、年金受給額が分からないという人が多いというデータもあり、よく分からないから不安というのが現状です。
公的年金はどんな制度?

公的年金には国民年金と厚生年金保険があります。
公的年金は老齢、障害、死亡といった事由に対して給付を行っています。
20歳以上のすべての国民は何らかの年金に加入しています
厚生年金は会社員が加入する年金保険です。
国民年金は20歳以上の国民全員が加入しています。
公的年金制度は3階建ての制度設計です。
国民年金がすべての基礎となる1階部分、厚生年金が2階部分です。
さらに企業年金や確定拠出年金が3階部分です。
国民年金に入らずに厚生年金や企業年金だけに加入することはできません。
被保険者は第1号、第2号、第3号の3つに分けられ、公的年金の加入・保険料・給付面で異なります。
第1号被保険者は、自営業、学生、フリーターなどの人、第2号被保険者は、民間企業等の従業員、公務員、第3号被保険者は一定の第2号被保険者の配偶者が該当します。
このうち、自分で保険料を納めるのは第1号被保険者のみです。第2号、第3号被保険者は給与から天引きで支払われます。

年金の給付は保険料水準を決めて給付水準を調整することにより財政の均衡を保つ方式をとっています。
給付水準は物価や現役世代の賃金に合わせて増えたり減ったりする仕組みになっています。
これは私的年金にはない公的年金の大きな特徴です。
公的年金はいくらもらえる?

①国民年金(老齢基礎年金)額の計算方法
老後に年金をもらうためには年金制度の加入期間が最低でも10年以上なければなりません。
老齢基礎年金の年金額は何か月保険料を払ったかで決まります。20歳から60歳まで、40年間すべての月の保険料を払った場合が満額で781,700円(令和2年度)もらえます。
老齢基礎年金年額:781,700円(令和2年度)×保険料納付月数/480
※40年で満額となりますので、上限は480月です。
令和2年度の保険料は月額16,540円です。まとめて前払いすると、割引が適用されます。
第1号被保険者は国民年金保険料を納付するときに、申し出をして本体の保険料に毎月400円の付加保険料を納めると、老齢基礎年金に「200円×付加保険料納付月数(年額)」がプラスして給付されます。
②老齢厚生年金の計算方法
厚生年金をざっくりとまとめると働いている間(40年間)に給料の20%(労使折半)を払って、退職後(65歳~)に現役時代の所得の40%くらいをもらえる制度です。
働いている間の給料は人それぞれなので、年金額も個人差があります。
下記は具体的な計算式です。
老齢厚生年金額=A+B
A:平成15年3月までの被保険者期間分
平均標準報酬月額×7.125/1000×被保険者月数
B:平成15年4月までの被保険者期間分
平均標準報酬月額×5.481/1000×被保険者月数
※標準報酬月額というのは報酬月額(基本給や各種手当を含めた総支給額)を保険料額表の1等級から32等級に分け、その等級に該当する金額のことをいいます。

直近の標準報酬月額はねんきん定期便に書かれています。
①の老齢基礎年金額と老齢厚生年金の合計額がもらえる年金の額になります。
老齢基礎年金を受ける権利がある人であれば、厚生年金の加入が1か月でも老齢厚生年金を受け取ることができます。
ねんきん定期便

年金は個人の働き方、保険料の納め方によって、将来受け取ることができる年金の額に大きく差があります。
ねんきん定期便は、自分の年金の目安を知ることができる非常に分かりやすい制度です。
ねんきん便は、日本年金機構から毎年誕生月に届き、年金保険料の納付実績や将来受け取ることができる年金額の目安を確認できます。
届いてもよく分からないからよく見ないで捨ててしまう人もたくさんいるようです。
ねんきん定期便の見方は日本年金機構のホームページに解説があります。
ねんきん定期便の見方
50歳未満の人は、加入実績に基づいた給付額が記載されていて、今後の見込みは反映されていません。
50歳以上の人は、今の給与水準で60歳まで働き続けたと仮定した給付額が記載されています。
ねんきんネットに登録すると「年金記録の確認」「将来の年金見込額の試算」「ねんきん定期便の確認」などができるので登録しておくと便利です。
年金制度のよくある誤解

①年金は運用されている
公的年金は現在の年金の支払いを現役世代の保険料でまかなう賦課方式で運営されています。自分が払った年金保険料が積み立てられて、それを将来自分が受け取る積立方式ではありません。
GPIFが運用しているのは現役世代が納めた年金保険料のうち、年金の支払いなどに充てられなかったもの余剰金です。

積立金の運用益は年金給付財源の一部ではありますが、その割合は10%ほどです。
株式市場で暴落が起きた時などに、「これで年金が解ける」などと言われますが、現役世代がもらう年金は、その次の世代の払う保険料から支払われるため、株価と年金支給には関係がありません。
間違えている人も多いのですが、自分の保険料がGPIFに運用されて将来自分に返ってくるのではないのです。
②公的年金制度は破綻するのか?
よく現在の公的年金制度は近い将来破綻するという話が出てきます。
たしかに年金保険料滞納者の増加は問題になっていて、令和元年度の国民年金保険料の納付率は約75%です。改善はしているものの4人に1人は払っていない状況です。
厚生年金保険料は事業者が支払うため滞納は起きにくいのですが、国民年金保険料は自分で納付するため滞納が起きやすくなっています。
いろいろと問題はあっても、年金制度は保険料収入の範囲内で給付を維持するように計算されています。
最新の財政検証を見ても経済情勢によって給付が減ったとしても破綻は考えられません。
積立の資産と違って、年金は生きている限り一定額がもらえるうえにインフレにも対応しています。
公的年金制度は破綻しないので、年金保険料を払っていない人は今からでも払っておいた方がいいでしょう。
まとめ

- 国民年金は40年間保険料を払うと年間約78万円(令和2年度額)が給付される
- 厚生年金の場合、現役時代の収入の40%くらいが給付される
- ねんきん定期便やねんきんネットで将来の年金額の目安が分かる
- 公的年金制度は破綻しないので年金保険料は払った方が得
「公的年金は不安だ」とか「破綻するかもしれないから自分で運用する」ということよりも自分が「年金をどのくらいもらえるのか」しっかり理解することが資産形成の第一歩となります。
まずはねんきん定期便で確認してみましょう。